先日読んだ本を紹介します。
「短歌研究ジュニア はじめて出会う短歌100」千葉聡編 佐藤りえ絵(短歌研究社・講談社)
千葉聡さんは歌人で高校の先生です。勤務先の桜ケ丘高校で名句・名歌・名文を紹介する「桜丘高校の小さな黒板」をいつもツイッターにアップしています。このブログでは、彼の本「今日の放課後、短歌部へ!」(角川学芸出版)を一度紹介しました。→こちら
その通称「ちばさと」先生が若い世代に短歌を身近に感じてほしいという願いを込めてこの本を出しました。8月11日に出来立てほやほやの本です。
この本には100種の短歌が掲載されています。遠く奈良時代の「万葉集」から、令和の短歌まで、幅広い中から、小中学生の読者に届けたい名歌を掲載したものです。高校生なら、一度授業で習って、懐かしい再会を果たせる短歌もあることでしょう。国語の教員である私には、「ああ、これ授業で教えたなあ。」と、その時の教室や板書が思い浮かぶ短歌もいくつかありました。
短歌に親しんでほしい、短歌という文化と歴史を知ってほしい、そんなちばさと先生の熱い思いが伝わります。西遠生にもぜひとも勧めたいと思いました。
読み進めていて気付いたのは、現代も含め、選ばれた名歌の作者に女性が多かったことです。みずみずしい感性、大胆な恋の表現、自然への気づき…。奈良時代の額田王(ぬかたのおうきみ)から平成、令和までたくさんの女流歌人が登場します。初めて聞く歌人の名前もあり、作者の紹介文を興味深く読みました。
授業を思い出して懐かしかった短歌
☆たとへば君 ガサッと落ち葉すくふやうに私をさらつて行つてはくれぬか 河野裕子
☆ゆく秋の大和の国の薬師寺の塔の上なる一ひらの雲 佐々木信綱
初めて読んで心に残った短歌
☆ フォルテとは遠く離れてゆく友に「またね」と叫ぶくらいの強さ 千葉聡
☆春だねと言えば名前を呼ばれたと思った犬が近寄ってくる 服部真里子
☆この夜がこの世にあることをわたしに知らせるケトルが鳴るよ 佐藤りえ
短歌との出会いは、日常の発見でもあると思います。ほんの些細な日常を切り取って読む彼らの短歌が、味わう私たちの心を「ハッ」とさせてくれます。平々凡々と生きていると、気づかずに通り過ぎていたということがたくさんあり、それを短歌が教えてくれるのです。ドラマチックでなくても歌になる瞬間や場面があることを知ると、ぼんやりした日常が輝き始めるように思うのは私だけでしょうか。