西遠は今日から夏休み後の登校が始まりました。前期・後期の二学期制をとっている西遠では、前期の終わりは10月なので、まだ今は「前期」の途中、2学期が始まったとは言いません。今日は、「令和2年度夏期休暇後の授業はじめ」ということになります。ともあれ、久しぶりの全校生徒の登校です。晴れてよかった!
青空の下、生徒たちが元気に登校します。ニコッと笑顔で交わす「おはようございます」の声は、やっぱり心躍るものですね。
今日は、中高分かれて「授業はじめの式」を行いました。久しぶりの講堂での訓話をしっかり真剣に聞いてくれた生徒の皆さん、ありがとう。講堂入場も整然として静かで、皆さんの今日からの意気込みを感じました。
式で中高に紹介したお話は、内容的に異なる部分もありますが、中高の両方で紹介したのは、この3冊の本でした。
そして、冒頭で、8月23日の朝日新聞「朝日歌壇」に掲載された東京の上田結香さんの短歌を紹介しました。私がぎくりとさせられ、新聞を閉じた後もずっと反芻(はんすう)していた歌です。
「本当なら今ごろは」ってみんな言う本当なんてどこにもないのに 上田結香
上田さんの短歌にぎくりとしたのは、自分もよく「ほんとうだったら今ごろは…」なんてことを幾度も口にしていたからです。本当って何? 期待?理想?仮想? 作者の上田さんは「本当」の意味を深く考え、思いを三十一文字(みそひともじ)にまとめられたのでしょう。その短歌が、読者の私の思考パターンに注意を送ってくれたのです。できなかったこと、やりたかったことを数えるんじゃなくて、今あること、現実を直視しなくちゃ、と。
「はじめて出会う短歌100」を紹介したのは、編者でもある歌人の千葉聡先生から西遠の生徒への言葉を紹介したかったからです。「ちばさと」こと千葉聡先生は、ツイッターで「短歌があると、毎日のなにげない出来事が輝きます。西遠女子学園のみなさん、ぜひ歌の仲間になってください」とツイートしてくださいました。西遠でも、皆で短歌に親しみ、口ずさむように短歌づくりができるようになったらいいな、と心から思っています。
次に紹介した本は、6歳でイランから日本に来た「移民」のナディさんが書いた「ふるさとって呼んでもいいですか」です。現在、2児の母であるナディさんは、日本に来てからの日々をとてもポジティブに振り返り、悩みや、失敗・挫折も紹介しています。私が今回、皆さんに紹介したのは、ナディさんが小学校に通うようになったときの、周囲の友達の反応でした。人と違うことをする、皆ができることができない…そんなナディさんに、級友たちは温かく協力し、プラスの声かけをして応援しました。ナディさんにとって、そんなにとって、温かい仲間がいたことは、前進の大きな原動力になったことでしょう。
今、コロナウイルスの感染拡大の中で、感染した人やその人が所属する団体を責めたり嫌がらせをしたりする行為が問題になっていますが、励ましたり思いやったりすることが今こそ大事だと思います。ナディさんの友人たちのように接することはできないでしょうか。人間には「想像力」があります。冷たく意地悪く想像するのではなく、それぞれの持つ豊かな「想像力」を優しく温かく発揮してほしいと思います。
「戦争はいらない」の本は、6月の殉難学徒慰霊式でも紹介しました。この夏は、戦後75年の節目の夏であり、たくさんの特集が新聞や雑誌、テレビやラジオなどで組まれ、中日新聞には「戦争はいらない」に体験文と詩を寄せた赤根幸子さんのインタビュー記事が掲載されました。(8月12日の当ブログでも紹介しました。)
この「戦争はいらない」の本も、13日に放映された第一テレビの特集での浜松市遺族会の皆さんが取り組んでいた体験をDVDにまとめる作業も、戦争体験者の皆様が平和への切なる願いを若い世代に届けようと一生懸命努力されている活動です。その思いを受け止める私たちでなくてはいけないですね。
中学生の皆さんには、「アンネの日記」の話を、高校生の皆さんには、NHKスペシャル「アウシュビッツ 死者たちの告白」の紹介とアウシュビッツの博物館ガイドを務める日本人中谷剛さんのインタビュー記事のお話をしました。
「アンネの日記」もまた、彼女の死後、ユダヤ人として迫害を逃れるための隠れ家生活を余儀なくされた日々を世に出そうとした父オットー・フランクの思いなしには出版されませんでした。同世代のアンネの日々を知り、差別や迫害について考えて欲しいという願いから、西遠ではこの本を中学3年生の必読図書にしています。
中谷さんのインタビューでは、アウシュビッツ収容所のガイドとして彼が訴えている3つのことを高校生に紹介しました。「民主主義は制度だけでは守れない。自分で意思表示をしていこう」「大切なのは、起きてしまった歴史の事実からどうプラスの未来をつくっていけるか」「誰にでもある競争意識が一線を越えると差別になる。越えてはならない一線を冷静に見つめ、コントロールすべき」という訴えを皆さんはどう感じたでしょうか。今回紹介した記事は、「アウシュビッツ博物館ガイド、中谷剛さんに聞く。『二度と、このような歴史が繰り返されないために』」というHUFFPOSTのニュース記事です。こちらからどうぞ。
先ほど、大坂なおみ選手が黒人差別問題に抗議して大会の準決勝を棄権したというニュースを知りました。彼女の行動は、中谷さんの言う「民主主義は制度だけでは守れない。自分で意思表示をしていこう」にあたるのだと思います。自らの意思を表明するまでの葛藤や決意を想像し、彼女の強さに心打たれました。大坂なおみ選手は、女性として人間として尊敬できる、素晴らしい方だと思います。
授業はじめの式を終え、明日は前期実力テストです。中学3年生は学力判定試験を受けます。勉強から逃げず、力強く立ち向かってください。そして、コロナ禍の中でも、豊かな想像力を温かく発揮し、平和についていつも考える皆さんであってほしいと思います。