歌集を読む

千葉聡さんの最新歌集「グラウンドを駆けるモーツァルト」を読みました。

千葉聡さんは、歌人であり、高校の先生です。生徒からは愛を込めて「ちばさと」と呼ばれています。横浜市立桜丘高校では、「桜丘高校の小さな黒板」として、毎日、詩や小説の一節、または短歌や俳句を生徒に紹介していて、千葉さんのツイッター上でも黒板が写真付きで紹介されています。

昨夏、「短歌研究ジュニア はじめて出会う短歌100」千葉聡編 佐藤りえ絵(短歌研究社・講談社)を当ブログで紹介した際、ご自身のツイッターでご紹介くださって、びっくり&感激し、狼狽&興奮しました!

そのちばさと先生がこのほど出版した「グラウンドを駆けるモーツァルト」は、短歌とエッセイで綴られた本です。短歌の部分もまるで物語のように展開していて、流れるように次の短歌へと読み移り、先の展開をドキドキしながら探検するような気持で読みました。こんなに速いテンポで歌集を読み進めたのは初めてです。冒頭の「あのころデニーズで」には、千葉さんの大学時代の友が登場します。その友の行方を短歌と共に追っている自分がいました。

お兄様のことを描いた「若くなっていく兄 —あとがきにかえて」も心に残りました。家族のことをこうして振り返る文章は、重くて温かくて切ないです。

そして、やはり高校の先生として五七五七七で綴る学校生活が、教師の自分には響きます。学校という舞台が、短歌をこんなに生み出すところだとは、自分自身ちばさと先生の短歌と出会うまで気づきもしませんでした。ちばさと先生は陸上部の第二顧問、グラウンドを駆けるモーツァルトもそこから生まれた言葉です。

  走ることは音楽よりも音楽だ トップスピードに入る瞬間

  グラウンドにモーツァルトがいる 大地からもらったリズムで今走り出す

  「グラウンドがやわらかい」って笑う子がいる 陸上部、今日再始動

3首目は、コロナによる休校などが明けて、7月に部活が再始動した時の歌です。自分たちも体験したコロナ禍の部活の休みと再開…。短歌ってこんなに学校生活のすぐそばにあるんですね。

そして、進路室を題材にした短歌も、先生や生徒には親しみやすいかもしれません。

  シンロとかシンロ室とか呼ばれるが本当は「進路指導室」です

  どの世界の果てにも進路室はあり悩みを一つ聞いてくれるよ

  ちばさとの机は進路室の隅 赤本貸し出しファイルが置かれ

「進路室」は、もちろん学校に寄って形も中身も運営方法も違うでしょうが、そこにある先生と生徒のふれあいは、どこの学校にもある真実なのだと思いました。

千葉聡さんの歌集を読み終わった私は、今までよりもずっと近くに五七五七七を感じられるようになっていました。もしかしたら、自分にも短歌が作れるかもしれない、短歌が私の暮らしの中に根づくかもしれない、という嬉しい気持ち。勘違いでもいいから、この気持ちを少しずつ現実の五七五七七にしていきたいと思います。