図書館入り口に掲げている「小さな白板(ホワイトボード)」、6月22日から26日までの第12週を振り返ります。今週のキーワードは「ふたり」。
6月22日(火) 枇杷の実を空からとつてくれしひと 石田郷子
枇杷の季節がやってきました。高いところになっている枇杷を取ってくれる大人は、背の低い子供からしたら「空から取ってくれる人」に見えるでしょう。誰に取ってもらった思い出なのでしょうか。お父さん?お母さん?親戚のお兄さん?‥‥大切な人との幼い頃のふとした思い出がこの季節に甦ったのかもしれません。
6月23日(水) 透明な空に向かって伸びる芽のように二人でのぼる坂道 千葉聡
初夏の勢いや若さの勢いが感じられる短歌を紹介しました。若い二人なのでしょう。一人ではなく二人で坂道を登っていくと、不思議と力も元気も出ます。若さのエネルギーはまぶしいものです。
6月24日(木)
「僕たちは友達でーす」と肩を組みイスラエルとパレスチナの友は笑いき 池田理代子
池田理代子さんが歌集を出したことを遅ればせながら知り、「えっ? あの漫画家の? ベルばらの? そして声楽家にもなったあの池田理代子さんが??」とかなりびっくりして、その第1歌集「寂しき骨」を購入しました。素晴らしい短歌の数々でした。赤裸々に書かれた家族や恋の歌。そして、作者がヨーロッパ留学中のことを歌ったであろうこの短歌が、今だからこそ心に突き刺さりました。国と国、民族と民族がいがみ合い、分かり合えない状況の中でも、個人の友情はしっかりと結ばれている‥‥、「笑いき」と過去形になっているけれど、この絆が現在進行形であって、生涯続いていてほしいと願わずにはいられません。
6月25日(金) 海を見に行きたかったな よろこびも怒りも捨てて君だけ連れて 染野太朗
いろいろな「ふたり」の光景があります。大事な人を失った思いも。行きたかったな、という一言が切なく響きます。2-1=1の歌。
6月26日(土) たつたこれだけの家族であるよ子を二人あひだにおきて山道のぼる 河野裕子
今週最後は、2+2=4の歌です。河野裕子さんが家族を詠んだ歌。以前、66回卒業生にも現代国語で紹介した短歌です。河野さんは2010年に亡くなりました。彼女と家族(夫の永田和宏さんも息子さんも娘さんも歌人)の短歌や随筆は心に残るものが多々あります。「目の前の茶碗を洗う」という彼女の口癖も息子さんが紹介していました。目の前のなすべき日常の仕事に心を決めて向き合う、そんな毅然とした母の姿勢が、家族にも大きな影響を与えているのでしょう。朝日花壇を時々読みますが、永田和宏さんの選も好きです。
楽しみに見てます、と言っていただける嬉しさに、「小さな白板」は続きます。