図書館入り口の「小さな白板(ホワイトボード)」、オンライン授業期間も続けました。今週は、「女流歌人」特集。女は強くて、豊かで、繊細で、複雑で、怖くて、手ごわい存在なのだ、という1週間。くすっと笑える短歌も、そうだ!と共感できる短歌も。
9月6日(月) 名付けるな この世の中にすでにある箱のどれかに分類するな 谷村はるか
この夏に購入した谷村はるかさんの「ドームの骨の隙間の空に」から一首。この短歌を見たとき、私の脳裏では、新川和江さんの詩「私を束ねないで」がリフレインし始めていました。何かに分類されること、他者から安っぽく決めつけられてしまうことを、嫌い、拒む姿勢を、私たちは女性の詩歌の中に発見し、共感します。大事なのは自分自身。他者に決めつけられるものではありません。
9月7日(火) 苦手若手岩手は字面が似ているな疲れているのは眼か夕暮れか 永田紅
8月号の「短歌研究」は、「女性が作る短歌研究」女性とジェンダーをめぐる短歌雑誌の特集号。その一冊の中で出会った一首です。字面の似た3つの単語を並べて、もしかしたら「若手」という言葉に敏感に反応して(?)、自分と向き合っている短歌のように思えました。老眼進み、夕方には目がとても疲れている自分には、親近感が湧きすぎる歌です。
この日から、ホワイトボード用のマーカーが2代目になりました。今までのマーカーより、ちょっと太く立派になりましたね。歌の主張もマーカーに比例して強くなっているのかも!
9月8日(水) アルバムに貼れない写真が一番の私の思い出だったりします 上田結香
去年の夏休み明けに紹介した短歌を覚えていますか?生徒の皆さんにとても反響が大きかった短歌
「本当なら今ごろは」ってみんな言う本当なんてどこにもないのに 上田結香
です。この上田結香さんのお名前を、9月5日の朝日歌壇で見つけ、上田さんに再会した気持ちで嬉しくなりました。そして、今度の歌には、思わずにんまりしてしまいました。アルバムに載せられない写真、家族にも秘密の大事な思い出。女性の心の中の自由を感じ、胸がすく思いがしました! ああ、上田さん、お元気でよかった~、ぜひお会いしたいです!
9月9日(木) 問答無用に空間を満たす芳香としてさいしょの音楽は生れたとおもう 井辻朱美
こちらも「短歌研究」8月号より。井辻朱美さんの作品十首「リフレン、リフレン」より、この一首を。太古の昔に思いをはせて、音楽誕生の瞬間を想像する大胆さを感じました。そうか、さいしょの音楽は香りだったのか・・・。鮮烈なデビューの図がかぐわしい香りと共に頭の中に描かれそうです。
9月10日(金) ルドゥーテは棘をしつこく描いている 細い棘、太い棘、輝く棘 林あまり
これも、「短歌研究」8月号からです。ルドゥーテはマリー・アントワネットなどに仕えた植物画家です。2019年に磐田市香りの博物館で鑑賞した「ルドゥーテ『美花選』とバラの香り展」 の記憶がよみがえり、林あまりさんのこの短歌に目が釘付けになりました。
改めて、絵葉書の束の中からルドゥーテの絵を探し出して、トゲを探してみました。確かに、立派な棘や細かい棘が細密に描かれています。バラの美しさを存分に描くとき、その棘さえも輝いていたんだなあと、林あまりさんの短歌のおかげで、ルドゥーテのバラを再度鑑賞することができました。
香りの美術館でのルドゥーテ鑑賞の思い出は、2019年6月のブログをどうぞお読みください。
9月11日(土) 智恵の実のりんごを食みて悪智恵の一つもとんと浮かばぬ不覚 馬場あき子
女性の短歌特集の最後は、馬場あき子さんの短歌です。
リンゴは、エデンの園でイヴが食べたとされる「禁断の果実」。イヴは蛇にそそのかされ、食べてはいけないと言われていたリンゴの実を食べて、善悪の判断、羞恥の思いを知るのです。 馬場さんは、その「智恵の実」リンゴを食べたのに、悪知恵の一つさえ浮かばない!と嘆きます。もちろん、本気で嘆いているんじゃないでしょう。「不覚」の二文字にくすっと笑いがこみ上げます。
いつもリンゴを食べる時に、みんなイヴのことなんて思いもしないでしょうが、智恵の実だと考えたら、何だかリンゴも奥深く味わえそうですね。味覚の秋、スーパーに並ぶリンゴを一つ買ってみましょうか。
さあ、いよいよ明日から登校再開となります。皆さんに会えるのがほんとうに楽しみです。