小さな白板 第26週

図書館入り口の「小さな白板(ホワイトボード)」、10月の最後の週を振り返ります。

10月25日(月)  ゆうらりと竿一本の伴奏で船頭唱ふからたちの花    佐々木佳子

翌朝、九州に出発する高校1年生と2年生に贈る短歌。最初の訪問地「柳川」の短歌を見つけました。北原白秋の故郷である福岡県柳川市で、生徒たちは水路をゆったりと回る舟下りを体験します。

白秋の作詞した歌を、船頭さんが歌ってくれます。 ♪からたちの花が咲いたよ。白い白い花が咲いたよ。♪

この短歌、「ゆうらり」という言葉が、舟下りののどかさを教えてくれるようですね。  2019年の北原白秋顕彰 短歌大会の入選作品です。

今年はお天気にも恵まれましたね。右の写真は、公式ページから拝借しちゃいました。まどか先生、素敵なお写真ありがとうございます! 今年はコロナ禍の中での船旅でしたが、船頭さん、唄ってくださったのかしら。

10月26日(火)  秀吉の生まれ変わりと思い込みながら揃える玄関の靴   小坂井大輔

玄関で靴を脱ぐとき、きちんと靴をそろえる若者。作者は戦国時代にのし上がっていった豊臣秀吉の逸話を思い出すんでしょうね。自分を秀吉の生まれ変わりだと「思い込む」ことで、少々面倒な礼儀作法を実践することができる…。くすっと笑える短歌を見つけました。(「短歌研究」2021年9月号より)

靴をそろえるのとはちょっと違いますが、私は、トイレを掃除するとべっぴんさんになれるという植村花菜さんの「トイレの神様」の歌や、「便所を美しくする娘は/ 美しい子供をうむといった母を思い出します /僕は男です」と詠んだ濱口國雄の「便所掃除」という詩を思い出しました。

10月27日(水)
相手の話をしっかり「きく」というのは相手の声を耳に入れるだけでなく、相手の目を見て、心の声をも聞きとることです。「聴く」という字には耳だけでなく目も心も入っているのです。
                                    入澤 崇

入澤崇さんは、龍谷大学の学長さんです。ツイッターでつぶやく言葉には含蓄があって、いつもハッとさせられます。ある日、ツイッターにこの文が載っていたのです。「聴く」という字に耳と目と心が入っている――大事なことを教えていただきました。コロナ禍で焦ったり落ち込んだりした時、何か事件が起きて衝撃を受けたときなどに、何度も救ってくださった入澤先生のツイッターです。

10月28日(木) あれ程の椋鳥をさまりし一樹かな   松根東洋城 

一本の木の中にあんなにたくさん椋鳥(ムクドリ)がいたのだ、と驚きを表現した俳句です。 椋鳥は大きな群れをつくって、夜、木々に集結します。浜松駅の周辺の木々にも驚くほどたくさんの椋鳥がいて、夜や早朝にものすごい羽音や鳴き声で人々を驚かせます。最近は東京の原宿に大量の椋鳥が住み始めたとか。浜松を追われて都心へ行ったのでしょうか? 椋鳥に悩まされている自治体は少なくないようです。

10月29日(金) 「平和構築の基本は対話」  山口 香

今年の夏行われた東京オリンピック。本当に開催するのか、開催できるのか、コロナ禍の中で開催すべきなのか、大きく揺れていた頃、柔道家でかつて「女三四郎」と呼ばれたメダリスト山口香さんがインタビューに答えて発したのがこの言葉でした。平和構築の基本は対話であり、それを拒否する五輪に意義はない、という意味です。いろいろな思惑がある中で、毅然として話し合いの必要性を表明した彼女の姿は、まっすぐでブレも忖度も微塵もありませんでした。

五輪開催の是非の論議にとどまらず、平和を構築するために一番根底になる「対話」の重要性を、私たちは忘れてはなりません。入澤崇先生の「聴く」にもつながる、私たちの考え方・生き方を教えてくれる言葉です。

10月30日(土) プレッシャーと闘う心 AIの持てないものの一つと思う  俵 万智

俵万智さんの「未来のサイズ」から一首。AIの持てないものを私たちはきっとたくさん持っています。プレッシャーに押し潰されないで、闘っていこうと心を奮い立たせてくれる短歌ですね。苦しい時に思い出してほしいなと思い、白板に書きました。

10月の白板はこれでおしまい。11月の白板も、皆さん、足を止めて読んでくださいね。