図書館入り口の「小さな白板(ホワイトボード)」、整然と並べられたスリッパ(みんな使う時もとてもお行儀が良いのです)の上に、ちょこんと鎮座ましましてます。第29週 11月15日から20日のラインナップを振り返ります。
11月15日(月)
王子さまが眠りかけたので、ぼくは両腕でかかえて歩きだしました。ぼくは心をゆすぶられていました。まるで、こわれやすい宝を、手に持っているようでした。地球の上に、これよりこわれやすいものは、なにもないようにさえ、感じられるのでした。(サン・テグジュペリ作「星の王子さま」より)
第29週は、永遠の名作「星の王子さま」より。「ぼく」にとってかけがえのない「王子さま」の存在。それは地球上に存在するものの中で一番壊れやすいものなのだと、彼は心から感じていました。出会った頃の戸惑いや面倒くささは、いつの間にか消えていて、この世で一番大事な宝物が王子さまになったのです。今年も「星の王子さま」を読む生徒がたくさんいるでしょう。人生の節目節目で読みたい名作です。
11月16日(火) やさしさが罪ならばいつか舟に乗せて金魚を放つように流さう 西巻真
この短歌はだいぶ前に知り、書き留めておいた一首です。できれば、この短歌が収められた歌集「ダスビダーニャ」が手元に届いて全編を読み終えてから紹介しようと思っていたのですが、16日に半ば衝動的にこの一首を白板に書きました。
そうしたら、その翌々日、今度は思いがけず、作者の西巻真様ご本人よりメールが届きました。11月初めに注文していた「ダスビダーニャ」を発送してくださるというお知らせのメールでした。作者ご本人からメールをいただいたことに驚きましたが、ご体調を崩されていたことを知り、そんな中での発送作業を申し訳なく思いつつ、本の到着を待ちました。
「ダスビダーニャ」という言葉は、「また会いましょう(さようなら)」を意味するロシア語だそうです。パンジーのような表紙の花の絵がもの悲しく感じられます。帯にある「ただ生き延びるために歌った」とする加藤治郎氏の言葉が指し示すように、一首一首が、思い悩み、のたうつように悶えながら書かれた短歌のように思えました。さらりと読んでしまっては受け止めきれない歌集です。この本がクラウドファンデングで出版されたことも、あとがきで初めて知りました。
「また会いましょう」の言葉通り、もう一度、ゆっくり、ゆっくり、最初から読ませていただきます。作者である西巻さんのご回復を祈りながら。
11月17日(水)
猿公(あいあい)と白象(ぱおー)、獅子(がおー)を引き連れて児は眠りゆく森の奥まで
黒瀬珂瀾「ひかりの針がうたふ」より
第26回若山牧水賞を受賞した歌集として紹介されていた「ひかりの針がうたふ」を読みました。作者である黒瀬珂瀾(からん)さんは、現在北陸の富山県にお住まいですが、この歌集には九州・福岡で過ごした日々が収められています。その中で、父親の目線で幼子の言動を描写した短歌が印象的でした。この短歌、あいあい・ぱおー・がおーという3体のぬいぐるみたちと共に眠りにつく幼いお子さんの姿が目に浮かびますね。30年前の子育ての日々に引き戻されるような甘酸っぱい思いを感じました。
11月18日(木) 動物園の匂ひかすかに持ち帰り吾子ふさふさと陽をまとひ眠る 河野裕子
幼子つながりで、もう一首。今度はお母さんが歌った短歌です。動物園から帰って疲れて寝ている我が子を見守る母親の静かな愛を感じます。今は亡き河野裕子さんの短歌、若き日の恋の歌も激しくて素敵ですが、私は家族のうたが好きです。
11月19日(金) 僕のことチビだといってバカにするでかいやつらは心がチビだ 柏原悠也
第20回NHK全国短歌俳句大会ジュニアの部 入選作品の中から、中学2年生の柏原悠也さんの短歌を紹介しました。この短歌を掲げたところ、早速、「この短歌、分かる!」「イイ!」と共感する中学生が名乗りを上げてくれました。心がでかい人になりたいね。
11月ももう下旬を迎えました。週明けは寒くなるようですね。一気に冬へと突き進むのでしょうか。浜松も、紅葉が見ごろを迎えそうです。