図書館入り口の「小さな白板(ホワイトボード)」、2月21日から26日までを振り返ります。今週は、「数字」にまつわる短歌や詩を集めました。
2月21日(月) 10000回きみが聴いたという曲の10001回目をきみと聴く 岡野大嗣
岡野大嗣さんの「音楽」という歌集に、この短歌を見つけました。10000回と言えば、ドリカムの「10000回だめで かっこわるくても/10001回目は 何か 変わるかもしれない」を 1月26日に白板に書いたばかりです。何度も聴いたお気に入りの曲だったり、何回頑張ってもダメなことだったり、 10000回という「すごくたくさん」を表す言葉がプラスにもマイナスにも使われ、さらに「10001回目」が歌われていることもあって、この一首に心惹かれました。
2月22日(火)
2222年 空がまだ青いなら/君とふたりピクニック/サンドウィッチとコーヒー/We can fly We can fly/To the sky To the sky チューリップ「2222年ピクニック」作詞:財津和夫
2022年2月22日という2がたくさん並んだこの日、結構盛り上がりましたね。私は22:22に写真撮ろうと思っていて、すっかり忘れました(笑)。チューリップの曲で「2222年ピクニック」というアルバムがあります。1982年に発売されたアルバムで、まだLPレコードの時代です。右の写真は、久しぶりに私のレコードラックから出した「2222年ピクニック」のレコードジャケットです。チューリップファンには、2222年まであと200年という2並びのこの日は、この表題曲を歌わずにはいられない日でした。今年はチューリップ50周年でもあります。70代のチューリップと出会うチャンスがあるなんて、ワクワクします。
さて、このホワイトボードの前で、歌詞を読んだ先生と生徒の会話を教えてもらいました。
先生:2222年まではあなたも私もとても生きていられないねえ。
生徒:私、生まれ変わって、2222年にいます!
いいですね、生まれ変わるという考え方。この先生も「その考え方はいい!」と言ってましたよ。その時、まだ空が青いままであるように、大事な人とピクニックに行けるように、今の地球環境を何とかしていかなくちゃなりません。
2月24日(木) 「六〇兆の細胞よりなる君たち」と呼びかけて午後の講義を始む 永田和宏
10000→2222→60兆。かなり数字が大きくなりました。
歌人永田和宏さんは、細胞生物学者です。若者への講義の最初の言葉が「60兆の細胞よりなる君たち」。自分が60兆の細胞から成り立っていると呼びかけられたら、みんなどんな反応をするんでしょう。すごい授業が始まりそうで、わくわくします。
2月25日(金) √5は 富士山麓に オウム鳴く 富士山麓に オウムはいない
早稲田佐賀高等学校1年 吉原 諒
数字の短歌はないかなあと探していましたら、「第3回数学・算数 俳句・川柳・短歌コンテスト」というものを見つけました。そこで出会ったのが、また永田和宏さんです。今回は、審査員として携わった永田さんが「永田和宏賞」として選んだ短歌を紹介しました。
√5(ルート5)は2.2360679.「フジサンロクニオウムナク」と覚えるんですが、吉原少年の言うとおり、確かに富士山ろくにオウムは生息してませんね。
2月26日(土) てふてふが一匹韃靼(だったん)海峡を渡つて行つた 安西冬衛
数字特集の最後は「1」。安西冬衛の「春」という1行詩です。小さなちょうちょが一匹、韃靼(だったん)海峡を越えていく。海峡という大きなるものと、蝶という小さく儚い命との対照。たった一行なれど、壮大な詩です。
この詩を書き留めた時、実はあと2つ書き留めた俳句と短歌がありました。3つ並べてみましょう。
- てふてふが一匹韃靼(だったん)海峡を渡つて行つた 安西冬衛
- 蝶墜ちて大音響の結氷期 富澤赤黄男
- てふてふが一匹東シナ海を渡りきてのち、一大音響 高野公彦
歌人の高野公彦さんは歌集「水の自画像」の中で、コロナウイルスの時事詠として「てふてふが一匹東シナ海を渡りきてのち、一大音響」と詠みました。その時、心にあったのが、安西冬衛の詩と富澤赤黄男(かきお)の俳句であったのだそうです。「本歌取り」と言われる由緒正しい修辞が、コロナ禍の新たな一首になりました。
小さな白板を始めてから、いろいろな詩や短歌、俳句を書き留めています。ストックされたものを全て紹介できるわけではありません、お蔵入りもあります。上記のいわば「てふてふトリオ」も紹介できないかもと思っておりましたが、数字特集で晴れてその一角を紹介できました(ので、調子に乗ってトリオで紹介しちゃいました)。
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暖かな日が続いています。週明けには、河津桜の花もたくさん咲いて、生徒のみなさんを出迎えることでしょう。