小さな白板2022 第10週

図書館入り口に掲げた「小さな白板(ホワイトボード)」。静かに生徒の活動を見守ってます。たまに気づいてくれる生徒あり(笑)。第10週のラインナップをどうぞ。

6月5日(月) 
 コンビニのガラスケースの〈い・ろ・は・す〉を一つ引き出すひかりもろとも  三井修

コンビニエンスストアにはとてもお世話になっています。あのガラスケースの中のペットボトルを引き出す瞬間を、こんな歌心あふれる短歌にできるのだなあと感動しました。キラキラと、あたりの空気が輝くような、そんな瞬間が、私たちの身近にはたくさんあるのですね。ペットボトルを引き出す動作ひとつにも、貴重な美しさが宿っているのです。

6月6日(火)
今の日本は「人に話を聴いてもらう」「人に何かをしてもらう」ためには、いきなり無作法にふるまう方が効果的だと過半の人が信じているようです。「decent でないといかなる願いも実現しない」ということをもう一度ルール化しませんか。              内田樹

内田樹さんの5月21日の呟きより。無作法を「作戦」として自分の主張を聞かせる今の風潮を、このまま良しとしてしまっていいのか、と私も思います。そこには、思いやりとか謙虚とかいう言葉は存在しません。 そういう大事な世の中のルールを、今、人々は軽視し過ぎていると思います。

「decent」とは、「ちゃんとした」「きちんとした」「礼儀正しい」と訳される言葉です。私は、この単語に出会うたび、恩師の岩井巌先生を思い出します。きちんと折り目正しい先生でした。物腰の柔らかさと厳かな雰囲気をまとった先生の前では、決して乱暴な物言いはできなかった…。

秩序だった社会の中で、全うに声を挙げること。相手の主張を遮らずに聞き、自分の主張を丁寧に、真摯に相手に伝えること。私も内田樹氏の「もう一度ルール化」に大賛成です。

6月7日(水) シャー芯をだしては入れての繰り返しここから進まぬあと四ページ  香西槙人

第20回NHK全国短歌俳句大会ジュニアの部の入選作品より。作者の香西さんは中学3年生です。昭和の大発明(だと私は思っていますが)「シャープペンシル」という名で発売された文明の利器は、やがて、「シャープ」「シャーペン」と呼ばれ、その芯は「シャー芯」という固有名詞になりました。隔世の感があります。その「シャー芯」を出しては入れる仕草に、宿題に悪戦苦闘して机に向かっている西遠生の後ろ姿が浮かびます。同世代には「分かる分かる!」と共感される風景でしょう。俯瞰的に見れば、その悩ましいひとときこそが、大事な時間なのですよ。あと4ページに悩む中高生の皆さん、大いに悩み、でも放り出さないで、前進してください。

6月9日(木) 先輩の言葉が染みる帰り道 また言われたい「がんばってるね」  真山りか

「短歌研究」2022年3月号掲載の ≪「アイドル課会」を体験レポート≫ より、今週も一首。「先輩の言葉が染みる帰り道」という上の句が指定され、アイドルたちが下の句を詠んだ歌の中から、真山さんの歌をご紹介しました。 真山りかさんは私立恵比寿中学のメンバーです。 後輩時代にこういう思いをした人は、先輩としてのあるべき姿も考えるもの。真山さんは、グループの後輩に目を配り、「頑張ってるね」と言える先輩なのでしょうね。

皆さんなら、「先輩の言葉が染みる帰り道」 に続けてどう詠みますか?

6月10日(金) この世は闇 コピー機のフタを開けたまま何も置かずにコピーをとれば 千葉聡

最初に「この世は闇」と書かれ、ちょっとびっくりします。思い悩んでいる人の心の叫びじゃないだろうか、と。でもそのあと、コピー機が出てきて、その意外性に「あれっ?」と思う。たしかに、コピー機を開けっぱなしでスイッチ推せば、出てくる紙は真っ黒です。開放されているから、真っ黒になってしまうという、逆説的な発見! コピーをとる作業からも、歌の世界が広がるんですね。ちばさと先生、きっと夜遅くまで学校でお仕事されていたんだろうな、と想像しました。

ちばさと先生こと、歌人で高校の国語教師の千葉聡さんの『飛び跳ねる教室』。昨年、MRI検査を受けに行くとき、この本を友として病院に持参しました。MRIの直前までちばさと先生の短歌をたどっていたおかげで、ガーガーと賑やかなMRI検査の間も、頭の中は短歌の世界に心地よく居られました。会計を待つ間は、卒業式のあたりを読んでおり、今度は涙が出て困った…という想い出の一冊です。

6月11日(土) てぶくろにネズミもキツネも詰め込んでどの子もぬくきベッドに眠れ  富田睦子

この短歌の「てぶくろ」とは、ウクライナの民話を指しています。以前、立教大学の総長メッセージとして白板にその一部を紹介したことがあります(3月17日)が、多様性を受け入れて皆で暮らすウクライナの人と風土を表す、心温まるお話です。この短歌が掲載された「短歌研究」5月号には、ウクライナの人々を想う歌、戦争を憂い憤る歌が、とてもたくさん載っていました。

11日は、第1回中学オープンスクールが行われた日でした。学校を訪れてくれる小学生のみなさんにも、この短歌の心が届くといいなと思い、白板に書きました。平和を祈る気持ちは誰も同じです。絵本の動物たちのように、人間も、領土や民族、言語を超えて、仲良く暮らしていきたいと心から思います。

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週末、「中日いけばな芸術展」を訪れました。お二人の方に誘われて、同級生がお花を展示している日に行きたいと思い、学校帰りに寄ったいけばな展でした。

友人のお花は、大胆かつ端正、爽やかで涼やかでした。道を究めるということの大変さを想い、ずっとお花に携わって精進する友をすごいなあと思います。
そして、そういう人生をたどっていらっしゃるであろう出品者の皆様の、一つの作品に込められた潔さや情熱を感じながら、ゆっくり会場を歩きました。花材として使ったお花の名前、木の名前が書かれていますので、それらの名前を覚えることができるのも、勉強になります。今年は、アジサイやヒマワリ、バラやヤマホウシといった花のほかに、枇杷の実が使われている作品もありました。喧騒を離れて、お花とじっくり向き合う、良い時間を過ごさせていただきました。