図書館入り口に掲げた「小さな白板(ホワイトボード)」、6月13日からの第11週を振り返ります(一週遅れでの振り返りです)。
6月13日(月)
瀧となる自由のために大河となる幸福のために泉となる存在のために 水原紫苑
ダイナミックな短歌に心惹かれました。滝、大河、そして泉。水の無限大の可能性を感じるとともに、自由や幸福、自らの存在のために生きる姿勢を作り上げようとする作者の心意気、強い意志を感じます。
6月14日(火)
そんなこともあるのだろう
他人には見えて
自分には見えない幸福の中で
格別驚きもせず
幸福に生きていることが――。 吉野弘「虹の足」より
国語の教員を長く続けていると、教科書を通じて様々な詩や短歌と出会います。ふっと、その1節を思い出し、その詩を教えた教室の風景や、生徒の感想、教材研究をしている自分の姿なども思い出します。
吉野弘さんの「虹の足」が載っていたのは、中学2年生の教科書だったでしょうか、長年にわたって生徒と共に読みました。覚えている卒業生も多いのではないかしら。バスの中から大きな虹を見つけた作者。虹の足の下にいる村の人々に向かって「おーい、君は虹の中にいるんだ」と呼びかけようと思う作者。しかし、踏みとどまり、「自分には見えない幸福の中で生きていること」に気づくのです。吉野弘さんの優しい心が伝わる、素晴らしい詩です。
6月15日(水)
無関心を関心に変えることで社会は変わります。だから、自分を大切にして、そして、他者を思う気持ちを大切にしていってほしいと思います。 サヘル・ローズ
無関心を感心に変えよう!と、私自身も訴えたいです。多様性を認め、困っている人々の存在に気づく心を持ってほしい。サヘル・ローズさんのこの本「支える、支えられる、支え合う」もぜひ読んでみてください。
6月16日(木)
「外へ出るのよ。野原へ出て、自然と、日光の恵みとを楽しむのよ。自分自身のなかにある幸福を、もう一度つかまえるように努めるのよ。あなたのなかと、あなたの周囲とにまだ残っている、あらゆる美しいもののことを考えるのよ。そうすればしあわせになれるわ!」 アンネ・フランク
「アンネの日記」より。ちょうど、この日、英語の研究授業にアンネ・フランクが出てきました。「アンネの日記」は、中学3年生の必読図書ですから、西遠では中3以上の生徒はみな読んだことがあるはず。私も何回通り読んだでしょう。
白板に書いたこのくだりは、アンネが母への反発心を書いている箇所です。母が「もっと不幸な人のことを考えなさい」ということに反発し、私ならこう言うわ!と日記に綴ったのがこの言葉です。プラス思考で積極的なアンネの心が、あの日記のたくさんのページを輝かせました。しかし、捕まり、収容所に送られ、病に倒れ…、やがて彼女の心がポキリと折れてしまうことを思うと、本当にいたたまれません。
今、ウクライナに生きる人々がかつてのアンネのように勇気を奮って生活しているだろうことを想うと、平和という「しあわせ」を早く早くつかみ取ってほしいと願うばかりです。
6月17日(金) マンエンと言へばマンエン元年のフットボール思ふ世代の一人 伊藤一彦
「短歌研究」2022年4月号で見つけた短歌。「マンエン」はコロナの「蔓延」であるとともに、元号の「万延」とも同じ音です。作者の伊藤和彦さんは、1943年生まれ。「マンエン」と聞こえるたびに、大江健三郎の小説「万延元年のフットボール」を連想する世代だと自負する歌です。来週から始まる「朝の読書週間」を前に、ちょっと文学の話がしたくなって、この短歌を紹介しました。私は伊藤さんの世代よりは若いですが、大江健三郎は私の好きな作家のひとり。難解な言葉が多く、読むのに苦労する、でも、そこが楽しいのが大江さんの小説です。
6月18日(土)
ながながと咲くやまぼふし雨だれに柔かいひたひを濡らされながら 山木礼子
ボードの写真を撮り忘れてしまいました。ヤマボウシの白い花、まだまだきれいに咲いているお宅が多いですね。雨に運れて咲く花を想い、この短歌を紹介しました。 「短歌研究」2021年8月号に掲載されている短歌です。
お知らせ
明日6月27日(月)、
西遠は代休日となっております。
ご了承ください。