小さな白板2022 第19週

台風14号は、宮崎県に特別警報が発令されるなど、かつてない被害をもたらすと最大限の警戒がされています。九州の皆様、どうぞ安全にお過ごしください。被害が出ないよう心からお祈りしています。静岡に接近するのは20日(火)未明から朝にかけてとのこと。これをお読みの皆様も台風の情報をしっかり確認してください。また、台風接近の際の暴風警報への本校の対応については、こちらをお読みください。

図書館入り口で学園祭前の皆さんを見守っている「小さな白板(ホワイトボード)」、第19週の6日間を振り返ります。

9月12日(月) 祈ること 走り抜くこと ランナーの目が手が脚が今を突き刺す 千葉聡

新体力テストの季節、体育の授業で、グラウンドを全力で走る生徒たちの姿が見られるようになりました。ちばさと先生は、陸上部の顧問のお一人として、部員たちの姿をたくさん短歌にしています。練習も試合本番も、一瞬の走りに賭ける選手たちの本気が、見守る先生の目に焼き付き、心にも届きます。

9月13日(火)  「落穂ひろい」に耳を澄ませば農婦らのさざめく声が聞こえるという  笹公人

農業を生業としてつつましく生きている農民をテーマに、ミレーはいつも絵を描きました。名画「落穂ひろい」を見ているうちに、本当に農夫たちの会話が聞こえてきそうな気がします。着飾った絵ではなく、生活そのものを写し取ったミレーの絵について、まるで伝説を語るかのようなこの短歌、笹公人さんの最新歌集「終楽章」で出会った一首です。

9月14日(水) 
アイデンティティってなんぢやらほい 水のゆらぎ光のゆらぎのなかに消えゆく   久我田鶴子

「identity」=個物や個人がさまざまな変化や差異に抗して、その連続性、統一性、不変性、独自性を保ち続けること(日本大百科全書より)。
アイデンティティという言葉、聞いたことはあるけれど、意味はと聞かれると、えっ?と怯(ひる)んでしまうかもしれません。捉えどころがない、抽象的で難解な言葉を逆手にとって、「なんぢやらほい」と言い飛ばす。水や光の揺らぎの中に消えていってしまう「アイデンティティ」。それは決して難解なことから逃げているのではなく、静かに見つめ考えているからこそ消えゆくように感じるのだろうと私は思います。

9月15日(木) 
 だからそう言ってんじゃんと言ってんのと言われてしまって何も言えない   郡司和斗

ボヤキのようなこの短歌。相手の勢いに気圧(けお)されて、黙るしかない筆者が目に浮かびます。でも、それは腹の虫の収まらない相手に反論するのではなく、苦笑いしているような、優しい愛にも見えるのです。

9月16日(金) 闇という字の中にある音を聴く 誰のものでもない舌を出す   遠藤健人

「闇」という漢字に着目したのが面白いなあと思いました。真っ暗な中で耳を澄ますことはよくあるけれど、漢字の中の音を聴くという発想が斬新だなあ、と。そして、誰のものでもない自分の舌をペロッと出す姿を想像すると…ちょっと毒気もある短歌ですね。

9月17日(土)  何気ない雲から順に消えてゆく秋はときどきひかりだと思ふ    西巻 真

ただ一人、秋の空をじっと見上げている作者の姿が想像されます。浮かんでいる雲が淡くなり、やがて消えてゆく空の移ろいを見ているうちに、すとんと腑に落ちるように、「秋ってひかりだな」と思い至ったのでしょうか。そして、その思いは、秋が来るたびに、ふと心に浮かぶ思いなのかもしれません。「ときどき」という表現が味わい深く感じられます。この短歌に出会ってから、飛行機雲がだんだんにじんで、空に溶けていくような情景を見ると、この歌を思い出すようになりました。

明日は敬老の日。明日はHR展の登校日ではありませんが、それぞれの生徒がお家でHR展の準備を進めることでしょう。一人一人の踏ん張りが、学園祭を作り上げていきます。