小さな白板2023 第15週

ゴールデンウィークを目前にした第15週の「小さな白板(ホワイトボード)」は、旅を意識した短歌をそろえてみました。

4月24日(月) 
飛行機は妖精のごと船は魔女のごと美しきかもわれを惑はす  水原紫苑

飛行機も船も、作者を旅に誘う妖精や魔女のような魅力を持ったものなのですね。水原紫苑さんはそんな誘惑を受けて、パリに旅立ったのでしょう。皆さんはどんな乗り物に「旅情」を感じますか? 私は電車の旅が好きです。

4月25日(火)
花巻の光太郎小屋訪(と)ひしことわが人生の一つ煌めき   髙野公彦

私にとっても高村光太郎はあこがれの存在であり、花巻を訪ねた時のことは忘れられない思い出ですが、それが名だたる歌人である高野公彦氏にとっても「わが人生の一つの煌めき」であるとは、何だかとても素敵な(おこがましいですが)共通点のように感じました。
私が「花巻の光太郎小屋」を訪ねたのは、大学4年のゴールデンウィーク。ちょうど今頃ですね。21歳の春の光太郎山荘のことは、今も鮮やかに脳裏に甦るのです。いつかまた行きたいと思いながら、もう40年以上がたってしまいましたが、花巻への旅行は私の心に今も煌めく思い出であることは確かです。

4月26日(水)
東海道一の難所はまた名所薩埵峠(さったとうげ)をひたすら歩く  永田和宏

薩埵峠は静岡市にあります(詳しくはこちらをどうぞ。静岡市のページです)。 絶景の広がるこの峠下には、現在、東名高速も国道一号線も東海道線も通っています。東名を東へゆく時にも、 薩埵トンネルを抜けた時、車窓に広がる絶景は、いつも大きな感動を呼ぶものです。

難所は名所、そう言い聞かせながら、峠の山道を行く作者の姿が目に浮かびます。薩埵峠にはきっと富士の霊峰も待っていることでしょう。歩くことは旅の基本。トンネルではなく山道を、海岸線を歩けなかった昔の人々の旅の道に思いをはせながら一歩一歩踏みしめる作者は、原点に立ち戻って、足の裏に「旅」を感じているのでしょうか。

4月27日(木)
ふらんす野武蔵野つは野紫野あしたのゆめのゆふぐれのあめ   紀野 恵

ふらんす野はもちろん作者の造語でしょうが、続く「武蔵野」「つは野=津和野」「紫野」は日本の地名ですね。「武蔵野」は東京の、「津和野」は島根県の地名。「紫野」は京都の地名で、歌枕でもあります。「野」とつく地名を並べながら、心はかの地に飛んでいるのでしょうか。「あした」は朝のこと。朝の夢に出てくる夕暮れの雨…? 何だか幻想的ですが、空想の世界でゆったりと『旅』を満喫しているような心の豊かさを感じる短歌です。ひらがなのぬくもりを感じます。

4月28日(金) 
もう少し揺られていたい各停をみんなが降りてゆく夕まぐれ   水野葵似

各駅停車の電車に揺られている作者。周りの人々は皆到着した駅で降りていき、車内はだんだんまばらになる…孤独な思いや、置いて行かれたような気持ちもあるでしょうが、「もう少し揺られていたい」という心に素直に従っている作者の行動もいいですね。これも小さな旅ですね。

来週からは5月。さわやかな季節の到来です。
そして、お待たせしました、図書館の本の貸し出しが5月2日(火)の放課後から始まります。