小さな白板2023 第17週

ゴールデンウィークを終えた学園にて、今週も「小さな白板(ホワイトボード)」を掲げました。図書館に新たな司書の渡邉先生をお迎えした最初の週です。

5月8日(月)
白抜きの文字のごとあれしんしんと新緑をゆく我のこれから   安藤美保

5月の爽やかな空気の中で、自分自身の未来を「白抜きの文字のごとあれ」(白抜きの文字のようであれ)と歌ったこの短歌。新緑の「緑」の中にくっきりと浮かび立つ「白抜き」のような存在でありたいという、凛とした姿勢が感じられて、背すじがピンとしますね。ゴールデンウィーク明けの皆さんにピッタリの短歌としてホワイトボードに書きました。

5月9日(火)
幸福と呼ばれるものの輪郭よ君の自転車のきれいなターン  服部真里子

君の乗る自転車が華麗なターンを見せた、それが幸せの軌跡、幸福の輪郭のように思えたのでしょう。自分にとって大事な存在である「君」の行動だからこそ、それが本人には何気ない行動だとしても、見ている人間には「幸福」を感じられる瞬間になるのだと思います。恋人とか親友でもあり得るし、私には成長した子供の自転車姿のようにも思えます。

5月10日(水)
サササドリと母が呼んでる鳥がいてたぶんこれだな、サササと走る  水野葵似

さあ、愛鳥週間が始まりました。ということで、鳥の短歌を紹介してみました。名前が分からない鳥を、作者のお母さんは「サササドリ」と名付けたのですね。同じく、作者自身も名前を知らないけれど、サササと地面を走っている鳥を見つけて、「お母さんが言ってた鳥って、きっとこれだな。サササとは知ってるもん」と思っている。鳥の名前が分からなくても、親子共通の「名前」があれば「愛鳥」には十分ですね。

ちなみに、このサササドリは「セキレイ」だろうなと想像しています。西遠にもハクセキレイ、よくやってきて、地面をサササササと走っていますよ。すばしっこく走るので、撮影には苦労する鳥です。この春には、初めてキセキレイも見かけました。

5月11日(木)
人々が一つになるためには、境目を飛び交いながら、心で「公平さ」を育てていかなければならないと思います。  ロバート・キャンベル 

Eテレ「あおきいろ」の「おしえて!せんせい」のコーナーに日本文学研究者のロバート・キャンベルさんが出演されていました。「どうして国がいくつもあるのですか?一つにした方がいいと思います。」という11歳のけんと君の質問に対する、ロバート・キャンベルさんの答えの一節を紹介しました。

キャンベルさんは言います。「人間は、遠くの土地や人を一つに束ねようとして、帝国や植民地を作ったりしましたが、束ねられた人々が反発して、バラバラになるという歴史を繰り返してきました。バラバラになると、紛争が起きるし、無理にひとつにしようとすると、公平さが失われ、人々は幸せになれないのです。」と。そのうえで、一つになるために大事なこととして、「心で『公平さ』を育てる」ことをキャンベルさんは提案しました。

多様性を認め合う、平和な社会の実現のためにも、ぜひ、こちらから視聴してみてください。キャンベルさんの優しい人柄がにじみ出る動画です。

5月12日(金)
太平洋戦争で亡くなった320万の人たちはいまもなお、わたくしたちに語りかけています。すなわち戦争が悲惨、残酷、そして非人間的であるということを。さらに、空しいということを。
  半藤一利

殉難学徒慰霊式当日ですので、戦争体験者からのメッセージを掲げようと思い、2021年に亡くなられた半藤一利さんの言葉を書きました。半藤さんは、『日本の一番長い日』『昭和史』などを書かれた作家・ジャーナリストです。ご自身が東京大空襲で命を失いかけた体験をお持ちです。

この文章は半藤さんの「 戦争というもの」から紹介しました。歴史に目を向けること、そこから人々の声を聴くこと、そして過去から学ぶこと。半藤さんがその生涯をかけて歴史と向き合った姿勢は、私たちに対してもどんな生き方をすべきか問いかけておられるように思います。

週末の雨が続きます。石川県や千葉県、そして今日の鹿児島県など、地震で大変な思いをしておられる皆様に、心からお見舞い申し上げます。