小さな白板2024 第22週

今日で5月も終わりですね。5月最終週の「小さな白板(ホワイトボード)」は音楽をテーマに短歌を集めてみました。パフォーマンス大会で音楽に乗って踊りの練習に余念のない生徒の皆さん、音楽は幅広いねー!

5月27日(月)
自鳴琴(オルゴール)、手風琴(アコーディオン)に提琴(バイオリン)、洋琴(ピアノ)、風琴(オルガン)さまざまな琴
         高橋春奈

音楽シリーズ、最初の短歌は、楽器。琴尽くしです。素敵な楽器が漢字で揃いました。カタカナでインプットしている楽器の名前、漢字ではこう書くんだ! 私もさすがに提琴は知りませんでした! 2020年5月10日に朝日歌壇に掲載された短歌です。

5月28日(火)
就職で大阪へ行く前の晩兄貴はずっと「戦メリ」聴いてた
       麻生孝

「戦メリ」は、「戦場のクリスマス」。昨年亡くなった坂本龍一さんの作品です。この短歌は、2023年4月30日の朝日歌壇から。この日は坂本龍一さんを追悼する短歌が朝日紙面に並んでいました。作者は、お兄様が就職で家を出て行く前夜の光景が、戦メリのメロディーと共に脳裏に甦ったのでしょう。ピアノで奏でられる悲しげなあのメロディー、3月2日の演劇「いのちのかがやき」でも、生のピアノでこの曲が演奏されたことが思い出されます。その曲を聞くと思い出す光景ってありますね。

5月29日(水)
ビブラートきかせ演歌を口遊むだぁれもいない真昼の厨
        上川原 緑

だぁれもいない台所で、演歌を口ずさんでいる女性の姿が目に浮かびます。ビブラートをきかせてるということは、かなり本格的に歌っているのではないかしら。「能登半島」かな?「越冬つばめ」かな?それとも、八代亜紀かしら…。誰かがいたら、歌わない場所。でも今は、カラオケに行かなくても、台所がステージ。マイクがなくっても、タマジャクシがあります。誰もいない空間ならば、歌は自由に歌える、自分を自由に表現できるものなのです。

5月30日(木)
鷗飛ぶ監獄の空晴れ渡りサッチモの歌を口遊むかな
       郷 隼人

「監獄」の2文字にびっくりした人もいたでしょう。作者の郷隼人さん(ペンネーム)は、朝日歌壇の常連です。1974年、24歳で渡米した彼は、 殺人罪で終身刑となり、カリフォルニア州の刑務所で服役しています。 刑務所の中で詠んだ歌が1996年に朝日歌壇に初入選して以来、330首を超す短歌が朝日歌壇に掲載されているそうです。この短歌は、今年1月14日に朝日歌壇に登場しました。郷さんの名前を朝日歌壇に見つけると、アメリカの刑務所の中で元気にしていらっしゃるのだなと安堵する読者も多いのです。

さて、サッチモって知ってますか?朝ドラ「カムカムエブリバディ」を見てた人なら分かりますね。ルイ・アームストロング、愛称サッチモ。アメリカの有名な歌手であり、トランペット奏者です。「What a wonderful world」「On the Sunny Side of the Street」など、すてきな曲がたくさんあります。晴れ渡った空の下で、郷さんはサッチモのどんな曲を口遊んだのでしょうね。私は、この短歌を味わいながら、映画「ショーシャンクの空に」で刑務所に響き渡ったモーツァルトが服役した人々に天使の調べのように聞こえたというくだりを思い出しました。

5月31日(金)
チェリストの厳格にして薫りたつバロック世界がひらかれてゆく
         紺野裕子

音楽特集最後の日は、バロック音楽の演奏会に誘われるような短歌を。厳格にして薫りたつ、という表現が、端正なチェリストの姿や演奏会の空気、厳かに始まる演奏など、視覚、聴覚など様々な角度から演奏会の様子を伝えていますね。これから演奏会が始まるという高揚感と共に、少し背筋を伸ばして緊張感を持って臨む演奏会の気品が漂ってきます。

・・・音楽をテーマにした第22週の白板でした。

【おまけ】5月の日めくりを中心に、すてきな5月の色を集めて並べてみました。日本の色は、味わい深くて、奥深くて、ほのぼのといいですね。