小さな白板2024 第28週

テスト週間でもありましたが、図書館入り口の「小さな白板(ホワイトボード)」見てくれた生徒はいたかな? 今週は固有名詞が多く登場しました。

7月8日(月)
鷗外がリアル・エリスに書きのこす「つまらないから読むなこの本」
       坂井修一

鴎外とは、明治の文豪「森鴎外」のこと。リアル・エリスとは、鴎外の名作「舞姫」のモデルとなった女性です。若い頃、鴎外は、ドイツで現地の女性と恋に落ちました。それを題材に書かれた「舞姫」は、主人公太田豊太郎と踊り子のエリスとの恋が描かれ、豊太郎に捨てられたエリスが狂気のうちに子を産むという悲劇的な結末を迎えますが、リアル・エリスは、鴎外が帰国したのち、日本を訪ねたこともあったそうです。
天下の文豪が元カノに向けて「この本はつまらないから読むな」と書き残していたというこの歌、作者の坂井修一さんは、工学博士であり、東京大学附属図書館館長でもあります。「短歌研究」に「鴎外守」と題した短歌20首が掲載されたのは昨年のことでした。図書館に残された様々な鴎外の資料を整理しながら、鴎外の書付を見つけたのでしょうか。想像が膨らみます。
先日、坂井修一氏「鴎外守」が第60回「短歌研究賞」に決定したというニュースに触れ、なんだかとっても嬉しかったオオバでした。

7月9日(火)
東山魁夷の愛した絵の具たち呼吸するガラスケースの中で
       松田わこ

昨日は文豪、今日は画家の東山魁夷さんを歌った短歌を。
画家の遺した絵の具をガラスケース越しに見つめた作者。作者にはその絵の具たちが生きているかのように感じられたのですね。私自身が、以前、中原中也の帽子をガラスケース越しに見た時の思いもこんなふうでした。ガラスケースをはさんでの出会いではありますが、今は亡き主人の愛用の品が展示されていることで、確かに東山魁夷という人は(私の場合は中原中也という人は)ここにこうして存在したのだ!という感激が沸きあがるのです。静かな展示空間の中で、作者が声にも出さず感動を噛みしめているのではないかと想像しました。

7月10日(水)
これもまたリモート会話かもしれぬ本を読むこと、とりわけ古典
       瀬口美子

朝日歌壇2020年9月6日に掲載された短歌です。2020年と言えば、まさにコロナ禍で、この先はどうなってしまうのかと将来の希望も見えない頃でしたね。夏期講習も、学園祭も、オンラインでした。リモート会話が日々行われて、離れた家族や友人とリアルに会えない毎日が続いていました。
そんな時、読書、とりわけ古典を読むことが、リアルには会えない作者との「リモート会話」のように思われたというこの歌が世に出たのでした。コロナ禍だからこその作者の発見が、とても新鮮に響きました。

7月11日(木)
マエストロの棒の先から澄明な朝がはじまる平和な朝が
       久々湊盈子

「短歌研究」2024年5・6月合同号には、「300歌人の新作作品集『2024年の歌』」が掲載されています。「水の束」と題された久々湊さんの10首の中には、今年2月に亡くなった世界的指揮者である小澤征爾さんを追悼する短歌が並んでいました。この「マエストロ」も小澤さんだろうと思います。彼の指揮棒の先から魔法のように繰り出されっる音楽が「澄明な朝」「平和な朝」をスタートさせてくれている…。耳にオーケストラの音色が聞こえてくるような短歌です。

7月12日(金)
グレタ・トゥンベリ、周庭(アグネス・チョウ)ら権力に立ち向かうZ世代の女性リーダー
       奥村晃作

この短歌もまた「短歌研究」2024年5・6月号で出会った短歌です。社会のリーダーよ、戦争を止めろ、という怒りがあふれる短歌10首の最後の一首が、この短歌でした。今の社会のリーダーたちへのふがいなさに比べ、勇気を持って活動する若きZ世代の女性リーダーが眩しく見えるのでしょう。非難や中傷、壁に抗って生き抜いているグレタさんや周庭さん。女性リーダーの高潔さを歌った短歌として、私は生徒の皆さんに紹介したいと思いました。
日本では、先頭に立とうとする女性にあからさまな誹謗中傷が沸き起こりますが、信念を持った女性の愚直なまでの強さに触れるたび、私は心から応援したいといつも思います。

7月13日(土)
合宿の帰りのバスで歌ったな「セーラー服と機関銃」おもふ
         小池 光

週の最後の固有名詞は、曲名です。「セーラー服と機関銃」は、薬師丸ひろ子さんの透明な歌声で、巷に流れました。1981年のことです。小池光氏は、合宿のバスの中で歌った思い出がよみがえるのですね。私は、この曲を聞くたび、なぜか夏休みの朝、中ノ町のバス停でバスが来た時の光景が思い浮かぶのです。皆さんはこの曲でどんな光景を思い出しますか? 
この短歌もまた、「短歌研究」2024年5・6月号から紹介しました。(恐るべし5・6月合同号。読み応えがありすぎて、まだ半分しか読み終えていません。作者アイウエオ順の300首は、まだサ行です。)

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先日「ソテツの幻の花が咲いた!」という新聞記事に出会い、ソテツの花の写真を見て、「?!」となりました。だって、その花なら西遠では毎年咲いているので…。

この長い黄色い部分が、雄花なのだそうです。今、本館駐車場東のソテツ、少なくとも3つ雄花が咲いていますよー! 珍しいということなので、どうぞ見にいらしてください!