心に残った本

風の強い一日でした。去年は咲き始めていた花も蕾固く、春未だ来たらず、です。
このユリノキに若葉が出るのはまだ1か月以上も先でしょうね。

さて、最近読んだ本を一冊ご紹介します。

「この父ありて 娘たちの歳月」 梯(かけはし)久美子著 (文芸春秋)

私がこの本を手に取ったのは、筆者にひかれてのことでした。昨年、梯さんが詩人 石垣りん の生涯についての連載を始めたのを知り、読んでいたからです。同じ筆者で、しかも「父と娘」という本であれば、きっと石垣りんも登場するだろう、と思い、目次をめくると、9人の作家や詩人として著名な女性たちが列記されていました。

  • 渡辺和子 : 修道女 「置かれた場所で咲きなさい」の筆者 父は2・26事件で死去 和子は父の最期の目撃者だった
  • 齋藤 史 : 歌人 父は2・26事件の首謀者を幇助した罪に問われた
  • 島津ミホ : 小説家 島津敏雄の妻で「死の棘」のモデル 父は奄美 加計呂麻島に住む
  • 石垣りん : 詩人 窮乏した家族のために働き続けた 父は4度の結婚
  • 茨木のり子: 詩人 医師の父を敬愛していた
  • 田辺聖子 : 小説家 父は写真館の2代目 戦争で体を弱らせ、戦後3か月で死去
  • 辺見じゅん: 歌人・作家 「男たちの大和」など 父は角川書店創業者
  • 萩原葉子 : 詩人 萩原朔太郎の長女 父の死後、父を題材として執筆活動に入る
  • 石牟礼道子: 作家 「苦海浄土」など 父を通して世の理不尽や悲しみを知る

読み応えのある一冊でした。9名の女性たちの中には、今まであまり興味のなかった方もいたのですが、筆者梯さんの丹念な取材によりその父子関係が解き明かされていくのが、推理小説のように私を魅了しました。尊敬や憧憬の対象である父もいれば、軽蔑や嫌悪を感じる父もいて、それぞれ娘が父との歳月を土台にして自身の路を切り拓いたのだということが伝わってきました。特に、渡辺和子さんの「私は父の最期を見守るためにこの世に生まれた」という言葉が強烈でした。

一人一人を大事に読みたいなと思い、次の女性のページに行く前で一旦本を閉じるものの、また読みたくなるような一冊。本のページをめくりながら、女性たちの一生がとてもいとおしく感じました。そして、石垣りんや茨木のり子の詩を無性に読みたくなりました。