小さな白板2025 第4週

図書館入り口に掲げている「小さな白板(ホワイトボード)」、第4週は短歌を離れ、様々な方々の言葉を掲載しました。

1月27日(月)
感情というのは液体だと思います。器に入れないと、その重さも色も味もよく分からない。自らの感情に意味を与えるためには、器すなわち言葉が必要なのです。
  恐山菩提寺院代
    南直哉

この言葉に出会ったのは、新年すぐの朝日新聞ウェブ版でした。→こちら(有料記事です)
「恐山菩提寺の院代が語る「不確かな」現代 生きるためにすべきことは」という記事に目が留まり、読んでいくと、不確かな時代に若者が特に進むべき方向を見失っていることに触れ、記者の「どうしたらよいですか?」という問いに次のように答えていらしたのです。
「言葉を取り戻すことです。自分がなぜ、苦しいのか分からないのは言葉を持っていないから。」
そして、この白板の言葉に続きます。感情は液体であり、その液体に意味を持たせるために器となる言葉が必要なのだ、と。

言葉をたくさん知ることは、自分の感情を説明するために不可欠なのだ、と生徒たちにも伝えたいと思いました。生徒と話していると、まだまだ言葉を知らないなあと思いますが、それは当然のこと、大人の役目は、そんな生徒たちにたくさんの言葉が身につくようにしていくことだと思います。講堂朝会でも、文学国語の授業でも、そしてこのブログや白板でも、「言葉」に出会ってほしいと切に願っているのです。

1月28日(火)
私の生きた一世紀と、次の一世紀を思うとその違いに慄然と致します。地球の環境全てが大きく変わってしまいました。
     志村ふくみ

この文は、「図書」2025年1月号掲載の志村昌司さん「小裂への想い」という随筆に綴られた、染織家で人間国宝の志村ふくみさんの言葉です。筆者の志村昌司さんは、志村ふくみさんのお孫さんで、染織ブランド「アトリエシムラ」の代表。伝統の継承と創造に努めていらっしゃいます。

染織家の志村ふくみさんは、昨年9月30日で100歳を迎えられたそうです。100歳のふくみさんが、来し方を振り返り、これからの100年(一世紀)への危惧を語っておられる。とても重い言葉だと思い、紹介しました。自然の色を出すことに長い間専念してこられたふくみさんの、自然への畏敬の念をひしひしと感じます。ふくみさんのご健康を願いつつ、100歳の言葉の重みをこの白板から受け取って、自分事として考えていきませんか。

1月29日(水)
私たちはこれから、「人間とミツバチが共生できる平和な環境」を地球規模で整えていかなければいけません。人間も、自然環境も尊重される社会。それにつながることなら、どんな小さなことでもいい。一人一人が取り組んでいく必要があると思っています。
       沼野恭子

沼野恭子さんは、東京外国語大学名誉教授でロシア文学者です。朝日新聞1月5日のウェブ記事「世界の料理を『翻訳』してきた日本 『食を守ることは反戦的な営み』」で、沼野さんのインタビューを読んでいると、ミツバチという言葉が目に飛び込んできました。学園祭HR展で3菊と4菊が扱ったテーマです。

沼野さんは、2024年秋、ウクライナのアンドレイ・クルコフの小説「灰色のミツバチ」(左右社)を翻訳、出版。小説を通して、「食を守ること自体が反戦的な営みなのだ」と痛感したのだそうです。

ウクライナははちみつの産地。戦争でミツバチが生きていけない環境になることが、人々から食もも平和も奪うのです。食料、料理という新しい視点で「平和」「環境」について考えさせられました。こうした切り口でHR展が展開されると、さらに深まるな、と思いながら…。

1月30日(木)
次は、子どもたちが夢を見られる場所を考えること、それが自分の夢になるのではないかと考えています。未来のためにも、「よき地球人」を増やすためにも、もっとわくわくする場所を作っていきたいと思っています。
       篠崎史紀

篠崎史紀(ふみのり)さん。通称まろさん。N響特別コンサートマスターとして、長年、N響の顔として活躍されてきました。そのまろさんが、今年3月で特別コンサートマスターを退任、N響も退団されるそうです。2025年1月「ステラ」のインタビューで、来し方を振り返り、これからの夢を語っていらっしゃいます。

この言葉は「退団後の抱負」を聞かれてまろさんが答えた言葉の一節です。次世代を育てるという壮大な夢。わくわくする場所を作るという意志。夢はいくつになっても、その人を輝かせるものであり、その姿勢が後輩たちをまた育てていくものなのでしょう。

「夢」という言葉は、昨年末に富野由悠季さんに出会ってから、私の中で、こだわりのある言葉になりました。いろいろな考え方があるのだということをあの講演会で感じました。夢がないことをマイナスに思わなくていいと知り、安心した生徒も多かったようです。しかし、それは「夢」という言葉自体を否定するものではないと私は思っています。少なくとも私は、「夢」という言葉はプラスの要因として大事にしていきたいと思っているのです。

1月31日(金)
この瞬間も苦しんでいる無数の罪のない民間人に思いを寄せています。彼らの多くにとって、私たちが代表する国際機関は最後の希望の光なのです。
       赤根智子

赤根智子さんのことは覚えていますか? 国際刑事裁判所所長として活躍していらっしゃることを、昨年5月の高校講堂朝会「ヨシコとトモコとエリカと憲法」で紹介した「トモコ」のお一人です。10月に発行された「友情」302号の巻頭言にも「嘉子と寅子と恵里香と智子」として赤根智子さんのことを書きました。

名もなき人々の命と幸せのために、勇気をもって巨大な権力に毅然と立ち向かう女性。数々の脅しや妨害にもひるまない女性。「最後の希望の光」となるべく自らの危険をも厭わない女性。赤根智子さんのことを私は心から尊敬します。彼女を一人にしてはいけない、と心から思うのです。

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1月が終わり、如月になりました。早い! 日々大事にしたいですね。各地で雪の予報も出ており、受験に赴いている高3生が案じられます。雪道で転ばないように、つま先とかかとに同時に力を入れて、ぶきっちょに歩いてくださいね(大学1年で雪国出身の友人に教わったアドバイスです)。

学園にコゲラが来て、コンコンコンと木をつつく音が聞こえてきました。どこにいるか分かりますか?

かわいいお客様です。