これは5年星組が世界初の“イ”から百年の時を超えて「情報」に迫った軌跡である。
今、世界は情報であふれている。便利な世の中だ。しかし『情報』は正しい方向を進んでいるだろうか。静岡大学工学部設立から百年。高柳健次郎が世界初の電子式テレビジョンを開発してから約百年。この1世紀の歩みが次の1世紀への道標となるのではという思いから研究を始めた。
第壱章 浜松の偉人は世界の偉人になった
「テレビの父」と呼ばれる浜松の偉人 高柳健次郎。彼の生い立ちをまとめた。
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情報はラジオからテレビへ
1926年大正時代最後の日、浜松高等工業学校(現 静岡大学工学部)の助教授だった高柳健次郎は、ついに世界で初めてブラウン管に「イ」文字を映し出すことに成功した。 太平洋戦争でテレビの研究は中断、ラジオが主流メディアとなり、1945年、玉音放送がラジオから全国に流れ、国民は終戦を知った。
高柳式テレビジョンのしくみ
①ニポー円板の穴によって画像が40分割される。
②電子ビームが「イ」の黒い部分で途切れることにより、「イ」の文字が浮き上がる。
③テレビのブラウン管の中での動き☟
テレビの発展
1953年、いよいよ日本でテレビ本放送開始。
教育テレビが誕生した1959年、皇太子殿下のご成婚を伝えたテレビ中継は1500万人に視聴され、テレビ時代が幕を開けた(当時は白黒テレビ)。
1960年以降、東京オリンピックなどをきっかけに急速にカラーテレビが各家庭に普及した。
2000年のデジタル放送開始によりテレビの高画質化が始まり、2011年にアナログテレビ放送は終了した。
2018年、放送衛星による4K・8Kテレビ放送が開始される。
第弐章 浜松でAIの進化に出会う
情報活用を加速させる「AI:Artificial Intelligence」(人工知能)を地元浜松で探し、取材を行った。
株式会社シルバコンパス(浜松市中区和地山)
AI対話システム Talk With によって、モデルからデータを実際に収録し、それを元に作成された「リアル アバター」と自然な会話を疑似体験できる。次の3つは活用実績である。
AI語り部
戦争の語り部を永続的に残す事業
AI対話型自動問診システム
医師とリアルな対話で病状を相談できる
AIジャニーズによる観光ツアー
リアルなジャニーズを体験
静岡大学情報学部 狩野芳伸准教授
狩野准教授にAIの発達と未来のあり方について取材した。
狩野先生の研究でAIはどの程度会話できますか?
テキストのみならば自然だが、ある程度会話していると話に矛盾が出たり、文脈や背景を適切に捉えられていなかったりする印象を持ちます。
AIがもたらす情報はどこまで信用できますか?
多くの場合、統計的・確率的に計算しているに過ぎない。信用するかどうかは、使う側の人間に依存するところが大きく、そのための材料をAI側にどう提供するかが、今ホットな研究の一つです。
AIが将来人間を越すことはありますか?
理論的に有り得るが、随分遠い未来であると思います。どんな技術もそうだが、AIを使う側である人間と社会がどう対応していくかによって決まるのではないかと思います。
第参章 情報の正確性はいかに:実験
パターンA〜Dでは屋外と屋内、パターンE〜Gでは音の伝わる速さを比較した。
(実験の様子は上の動画をご覧ください)
第四章 マスメディアとインターネット
テレビ・新聞への信頼度は世代差あり?!
全世代で、テレビ・新聞への信頼度がインターネットのそれより勝っている。
が!!
20・30代のテレビ・新聞への信頼度は他世代より低い。10代は親との同居世代だと考えると、若者のテレビ・新聞離れが進んでいると考えられる。
日本のテレビ・新聞への信頼度の高さは特異?!
日本におけるテレビ・新聞への信頼度は、他の先進国に比べ極端に高い。
この結果をどう捉えるか。
グラフを見てみよう。
日本は他の先進国とは明らかに違い、民主主義が未発達な国々の間に位置する。「政治に無関心」「自分で考えようとしない」「事なかれ主義」の言葉が飛び交う現代日本。テレビ・新聞から流される情報を鵜呑みにしていないか。日本人にとって大きな課題である。
ネットを信じるか、テレビ・新聞を信じるか
こういうデータもある。
世代によって情報確認手段が大きく異なることがわかる。40代を境にして、前半がネット世代、後半がテレビ・新聞世代にはっきりわかれている。
近年、フェイクニュースや情報操作などの用語をよく耳にする。若者のマスメディアに対する信頼度が低い原因の一つになってはないか。第四の権力=マスメディアの信頼回復のためには、マスメディアに対する国民のけん制が必要だ。マスメディアに対する最も民主的な方法を考えた。
➡情報に関する問題が発覚した場合は見ない、買わない ➡企業としてのマスメディアにとって顧客の喪失は利益の喪失 ➡マスメディアに自浄作用を促す
最終章 情報に対する私たちのあるべき姿
情報には多くの意味がある
「データ」 調査や実験から得られるもの 「インフォメーション」 知識 見聞 お知らせ 「インテリジェンス」 諜報 知性 知能
今回の研究で学んだことを次に述べる。
・メディアリテラシー=情報の真偽を見抜く力 の向上が必要 ・<真実>から論点を外そうとする意図的な情報操作に乗らない洞察・思考力の向上が必要 ・正確な数値によるデータや一次資料にあたる努力と慎重さ➡「事実」以上のものはない ・「嘘は泥棒のはじまり」「人に迷惑をかけてはいけない」という失われつつある日本的な道徳心の回復➡教育が大切
昔から人は情報を欲し、それを得て生活を豊かにしてきた。しかし「情報」を取りまく環境には課題も多い。健次郎は純粋に人の役に立つためにテレビを開発した。健次郎の想いを引き継ぎたい。大切なのは【メディアリテラシー】と【自分で考える】ことだ。これらは世界共通の認識として多くの皆さんに伝えたい。
「情報」は国境を超える
<参考文献>
『テレビ事始 イの字が映った日』高柳健次郎著 有斐閣(1986)
『未来をもとめて ひたむきに』清水達也著 PHP研究所(1985)
『イロハの“イ”テレビ事始』浜松市博物館(2006)
『知ってびっくり もののはじまり物語』汐見稔幸監修 学研(2010)
『世界にかがやいた日本の科学者たち』大宮信光著 講談社(2005)
『テレビを発明した高柳健次郎』浜松市東区役所(2009)
『決定版 心をそだてる科学のおはなし人物伝』小山慶太監修 講談社(2011)
『あの人に会いたい』NHKあの人に会いたい刊行委員会編 新潮文庫(2008)
『静岡大學テレビジョン技術史』財団法人浜松電子工学奨励会(1987)
『輝く静岡の先人』静岡県県民部文化学術局文化政策室 静岡県(2009)
『よくわかる デジタル放送』河村正行著 電波新聞社(2003)
『浜松 歴史のとびら』山﨑章成著 中日新聞(2022)
『テレビはこれでよいのか』ばばこういち著 岩波ブックレット(1985)
『その情報、本当ですか?ネット時代のニュースの読み解き方』塚田祐之著 岩波ジュニア新書(2018)
『AIの時代を生きる 未来をデザインする創造力と共感力』美馬のゆり著 岩波ジュニア新書(2021)
『AI倫理 人口知能は「責任」をとれるのか』西垣通 河島茂生著 中公新書ラクレ(2019)
『情報通信白書(令和元年、3年、4年度版)』総務省HP
『社会実情データ図録』本川裕HP