日本での殺処分が減った理由の一つに、国・地方が動いたことが挙げられます。
国が動いた!
・動物愛護管理法の改正
現在の動物愛護管理法の元になる法律である、「動物の保護及び管理に関する法律」が1973年に制定されました。この法律ができる前は、動物愛護や管理を目的とした総合的な法律はありませんでした。しかし、犬による咬傷(咬傷)事故の社会問題化や、日本が海外と比較して動物愛護政策の遅れを取っていることなどから制定に至りました。
その後、新しい問題に合わせて何度も改正が行われました。
特に2019年の改正により、動物愛護管理法の内容がより具体的となりました。
・具体的に何が変わった??
第一種動物取扱業(ペットショップなど)に関する改正
●ペットショップなどは、登録しないと営業できない決まりになっています。
規定違反をしたペットショップなどの第一種動物取扱業は、登録が取り消され2年間登録ができないとされていましたが、2019年の法改正で「3年間」と期間の延長が行われました。
新しく追加された法律
飼養又は管理に関する基準を具体的に定める
・飼養施設の構造や規模
・従業員の数
・環境の管理
・疫病への措置
・展示又は輸送の方法
・繁殖の回数,方法
●2019年の動物愛護法改正で、ペットショップなどの第一種動物取扱業者に、従業員一人に対するペットの数を具体的に数値化をして規制することを決定しました。
その後環境省で検討会が行われ、2020年に具体的な数値が出されました。
例えば
・ペットショップなどで販売する犬については従業員一人あたり20匹、猫は同30匹を上限とする。
・母犬、母猫にとって負担となる繁殖については、犬猫ともに交配できるのは「6歳まで」とする。
など、具体的な数字とともに提示され、国としても取締りがしやすいようになりました。
施行は、2021年にされる予定です。
出典:全国ペット協会のwebサイトより
自治体が動いた!
国とともに、地方自治体が動いたことも大きな理由です。
浜松市の事例を紹介していきます。
・浜松市動物愛護教育センターの設立
浜松では、平成26年に〝優しい市民の暮らす街〟を目標に浜松市動物愛護教育センターが創立されました。
浜松市動物愛護教育センターの理念
1.動物や動物の命を大切にする思想を普及啓発する。
2.動物との正しい接し方などを指導し、愛情ややさしさを持った豊かな心を育成する。
3.飼主のいない犬・猫を少なくし、動物を愛するまちづくりを進める。
出典:浜松市動物愛護教育センターのwebサイトより
動物愛護教育センターで働く白澤さんからお話を伺いました。
Q.動物愛護教育センターでは主にどんな仕事をしているのですか?
A.主に、
1.犬猫の譲渡、譲渡会の開催
2.ペットショップなどの動物取扱業の登録及び指導監督
3.特定動物の飼養許可及び指導監督
4.苦情申立のあった飼育者への指導監督
5.飼えなくなった犬猫の引き取り
6.負傷動物の保護
7.しつけ教室の開催
を行なっています。
Q.飼えなくなったなどの理由で引き取った犬猫や、負傷していて保護された犬猫はどこに連れて行くのですか?
A.引き取りや保護をした後の流れは犬と猫で異なります。
犬の場合
犬の場合は、今、日本には野良犬はいないとされています。
つまり、保護された犬は「誰かの犬」ということになります。
そのため、「落とし物」と同じ考えになるので、警察への連絡が必須となります。
猫の場合
猫の場合は、野良猫がいるとされているため、警察への連絡は必要ありません。
Q.愛護教育センターでは殺処分は行なっていないのですか?
A.行なっていません。愛護教育センターは保護されたり引き取ったりした犬猫を
1.性格や癖の矯正が難しい
2.治すことが難しい病気にかかっている
3.自分で餌を食べることができない
などの事情を踏まえて、判別をするという仕事を行なっています。
残念ながら、殺処分譲渡に適さないと判断された犬や猫は、動物管理指導センターに送られ、殺処分となります。
Q.動物愛護教育センターと保護団体の違いは何なんですか?
A.一番の大きな違いは、保護団体は感情で動けるのに対して、動物愛護教育センターは、
●狂犬病予防法
●動物の愛護及び管理に関する法律
の二つの法律に沿って動いているというところです。
Q.狂犬病予防法と動物の愛護及び管理に関する法律の内容を教えて下さい。
A. 狂犬病予防法は、犬から人へ感染する「狂犬病」を予防し、人を守るための法律です。
内容は一年に一回の狂犬病予防接種の義務づけや、入手してから30日以内に犬を登録することなどが書かれています。
動物の愛護及び管理に関する法律は、動物愛護精神を広め、動物に関わる業者の管理のための法律です。
内容は、ペットショップなどの営業の際の登録の義務化やマイクロチップの義務化などが書かれています。
Q.法律のもとで働く立場から見て、殺処分が減ってきている理由は何だと思いますか?
A.浜松に愛護センターができたことで、市民との距離が近くなったことと、保護された犬猫たちをお世話する場所ができたことだ大きいと思います。
また、動物の愛護及び管理に関する法律の改正により、ブリーダーさんやペットショップへの規制が厳しくなり、多飼育崩壊などを防ぐことができたのも大きいと思います。
そして何よりも終生飼育(最後まで飼う)の認識が浸透しつつあることも大きなことだと思います。
Q.今の2つの法律で、変えていかなければいけないところはありますか?
A.沢山あります。
例えば、マイクロチップの義務づけは大事ですが、装着をしたら100%安心とは限りません。マイクロチップの中に入っている情報を定期的に更新しなければ意味がありません。
実際にあった例では、浜松の街を放浪していた犬を保護し、マイクロチップの確認をしたところ、住所登録が京都府になっていました。犬がそんな距離を歩いてくることは不可能だと思い、登録の電話番号に電話をしたところ、その犬は誰かに譲渡したということでした。しかし、誰に譲渡したかはしっかりと覚えていないため、飼い主を探し出すことができないというケースがありました。
そういうケースだと、マイクロチップが入っている状態なので「誰かの所有物」ということになり、所有権が複雑になり、譲渡もできないという問題が起きてしまいます。
Q.浜松動物愛護教育センターとして、今後変えていかなければいけないところはありますか?
A.もちろんあります。
例えば設備面では、理想はもっと大きな部屋で飼育してあげたい。トイレと寝る場所を分けてあげることが出来たら、いい環境になると思っています。
だからと言って、一匹に沢山の場所をとるとなると、収容できる犬猫の数が限られてしまうという問題もあるのが現状です。
Q.愛護センターで働く立場から見て、市民にして欲しいことはありますか?
A.沢山あります。
例えば、動物の好きな人の意見だけを尊重するのではなく、苦手な人の考え方も尊重するなど、物事を片方の面だけ見て判断するのではなく、様々な角度から捉えて欲しいと思っています。
また、地域との関わりも大切にして欲しいと思っています。これはあくまで傾向ですが、野良猫に餌付けをしている人は周りから孤立しているケースが多いように感じます。
地域の人とのコミュニュケーションを大切にすることで、無責任な餌付けによって野良猫が増えるのを止めることができると思います。
●感じたこと
行政は、私たち市民の税金を使って動いている。
一生懸命働いて納めた税金を犬猫の飼育代に使うとなると、全員の人が納得するわけではない。
しかし、なぜ殺処分をするんだという人もいる。
そのように様々な人々の意見を尊重しつつ、法律の下でありながら、1匹でも多くの命を救いたい。
私たちは取材を通して、行政の方々の「命を救いたい」という強い思いを感じました。